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Can't Stop Fall in Love【番外編】

兄の憂鬱

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 「───ぶほぉっ!!」

 清水沙紀は、突然の奇妙な咳に驚いて家事の手を止めて振り返った。
 「悠一さん?」
 視線の先では、婚約者である羽田野悠一が食後のコーヒーを盛大に吹き出して咽込んでいた。

 「ごめんなさい、熱過ぎた?」
 布巾でこぼれたコーヒーを拭いながらも、むせ続ける悠一の背中をさする。
 「いや……、違う……。ゴホッ、ふざけたメールが来て、驚いただけ……」
 悠一は真っ赤な顔でゴホゴホと咳き込みながら、手にしたスマホを沙紀に見せた。
 「あら……。」
 そこに書かれた文章を見て、沙紀も目を丸くする。これは、悠一が驚くのも無理はない。
 それは、悠一の親友であり、沙紀と悠一が勤める彼の父の弁護士事務所の雇い主の御曹司、須崎輝翔からのメールだった。

 『お義兄さんへ。
  不束者ですがよろしく☆Σ(ノ≧ڡ≦)』

 ───軽っ!!
 普段の紳士的な態度からは想像もつかない文章に、沙紀は心の中で思わず突っ込みを入れた。

 「あの野郎……。やりやがった……。」
 ようやく落ち着いた悠一は、溜め息をついてソファへ身を沈めると天を仰いだ。

 焚き付けるつもりなどなかった。自分と沙紀のお祝いを兼ねて一緒に飲もうと誘われた先日の居酒屋での会話を受けて、輝翔はGOサインが出たと受け取ったらしい。酒量が増えて、つい輝翔の結婚話などを口走った。おまけに沙紀が、二人で付き合っちゃえばなどと口走った時は、内心冷や汗が出た。

 まったく、俺の気持ちも知らないで。うちの嫁は、しっかりしているようでどこか抜けている。

 沙紀と知り合ったのは大学2年の時。入学式を終えて講堂を出てきた沙紀の姿に一目惚れした。
 自慢ではないが学生時代はそこそこモテた。大企業の顧問弁護士の跡取りで将来有望、しかも傍らには常に噂の御曹司が居るのであれば、声をかけられる機会も多く女性に不自由することはなかった。そんな俺が、人生で初めて自分から積極的にアプローチした。
 話してみると、清楚で落ち着いた印象の容姿もさることながらどこか天然な振る舞いにもすっかり心を奪われた。ほどなくして沙紀も自分に気があるとわかり、卒業する頃には結婚を視野に入れるようになった。
 父は美月が大学を卒業したら自らの事務所で働かせるつもりでいたが、輝翔のアドバイスもあって、今はその席に沙紀が座っている。
 ……後になって考えれば、それも美月を|自分の会社《テリトリー》に引き入れるための布石、だったのかもしれない。

 俺の複雑な心境を知ってか知らずか、沙紀は軽い報告に驚きはしたもののどこか安堵した様子でいる。その反応に若干の違和感を覚えた。
 輝翔の気持ちは知っていたが、沙紀に教えた覚えはない。普段の彼女であれば、もっと無邪気にはしゃぐのではないだろうか。じっと彼女の顔を見つめていると、視線を合わせた沙紀が含むような笑みを浮かべた。
 「恋する気持ちを止めちゃダメなのよ。」
 ───どうやら、GOサインを出したのはこいつのようだ。

 いったいあの妹のどこをそんなに気に入ったのか。
 不細工とは言わないが、身内の贔屓目から見ても特別美人というわけではない。
 小動物のようにちょこまかと自分の周囲を走り回る存在が、なぜか御曹司の目に留まってしまった。

 美月が輝翔と初めて会ったのは、美月が中学生になってすぐの頃だった。
 つい先日までランドセルを背負っていたガキが、真っ赤になって一丁前にも女の顔をしていた。しかし、それも当然の反応だろう。
 輝翔は、男の自分から見ても惚れ惚れするような容姿の持ち主だ。その上、育ちの良さから来る品格や、将来大企業を背負って立つ度量も兼ね備えている。人当たりも良くて社交的、温厚で穏やか、それが世間のあいつに対する評価だ。

 だが、実際の輝翔は違っていた。それはあいつの育ってきた環境が少なからず影響していると思う。
 輝翔が身を置く社交界の女というのは、あいつの持つ地位や名声、容姿に惹かれてまだ中学生の輝翔に対してもえげつない手を使って近づいたらしい。輝翔と面識を持った際、俺はあいつの|制御装置《ストッパー》になることを双方の親から求められた。それくらい、出会った当初の輝翔は荒んでいて、女性関係もひどいものだった。輝翔は言い寄ってくる女たちに心底嫌気が差していたし、その話を伝え聞いていた自分も、そんな世界に妹が身を投じることになるのは避けたかった。

 輝翔の気持ちは知っていた。直接本人から聞かされたからだ。
 ただ、自分にも、兄として、輝翔の将来の仕事のパートナーとしての責任がある。
 いくら須崎の御曹司とはいえ、10代の女の子に手を出せばそれは立派な犯罪行為になる。妹のためにも、大企業である須崎グループを守るためにも、輝翔の軽率な行動は思い留まらせる必要もあったし、万が一何かが起きた場合は顧問弁護士である父が介入するわけだが、淫行の相手が自分の娘というのはあまりにも親不孝ではないか。

 『妹の恋愛の自由は守ること』

 輝翔にそう約束をさせて、それとなく騒ぎの素の芽は摘んできた。
 いや、自分の知らないところで輝翔も何かしていたかもしれない。もっと言えば、中学までは普通に公立の学校に通っていた妹が、自分たちと同じ高校に通いたいと言い出したこともあって、自分と輝翔がつきっきりで勉強を教えていた。いくら4歳差で学年が離れているとはいえ、幼稚舎から続く一貫教育の私学では須崎の御曹司の名前は絶大な威力を持っていたはず。それがのちに、どんな影響を残していたのか……。

 美月が大学に入学すると同時に、輝翔はいずれ実家の跡を継ぐために会社に入った。仕事は思った以上に大変だったらしい。最初の3年間は時間を作っていたようだが、輝翔が専務になり美月が大学四年の時、ついに美月に彼氏ができたと知った時の輝翔の落ち込み具合は、半端ではなかった。───妨害、できなかったんだろうなあ。

 いつまでも庇護すべき対象であった妹に彼氏ができたのは兄としては複雑なものだったが、ホッとしたのも事実である。
 美月は輝翔に『兄の友人』『憧れの先輩』以上の関係を求めようとはしなかった。敬意は払いながらも必要以上には近づかない。女性ならば誰しもが憧れるであろうセレブな世界も、自分には関係のないものだと割り切っているようだった。

 できるなら、普通の恋愛をして、普通の結婚をして欲しい。
 可愛い妹が傷つくことのないように。
 それが兄の願いだったのだが、輝翔はそれを許さなかった。

 でも、だからかもしれない。
 自分から一線を引いて、絶対に足を踏み入れようとしない美月だからこそ、輝翔も興味を持ったのだろう。
 だからといって、ここまで執着することになるとは……。

 「ところで、輝翔さんはいつから美月ちゃんのことが好きだったの?」
 「ああ、それは───。」

 輝翔が、美月を好きだと言った時の顔を思い出すと、自然と笑いが込み上げてきた。

 美月や沙紀の前では紳士的な態度を崩さない輝翔のことだ。きっと美月に聞かれても当たり障りのない回答をするだろう。
 だが悠一は本来の輝翔を知っている。腹黒くて強引で我が儘な策士が、自分が不利になるような情報をもたらすことはしないことも。
 いくら大願を成就したとはいえ、たった一人の大切な妹にこの先苦労をさせるだろう相手に、悪友としてちょっとだけ悪戯してやろうか───。

 「それは、今度、美月も一緒の時に教えてやるよ。」
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